観光客の急増

屋久島の世界自然遺産登録と現状

  世界自然遺産登録の条件を要約すれば「世界の文化遺産、自然遺産の普遍的価値を保護する」条約であって、本来この条約の主旨に従って管理運営していかなければなりません。しかし、日本のそれぞれの遺産がこの主旨を適えるどころか観光化による破壊の方向にあることが問題となっています。

  本来屋久島は登山者や仕事の関係者のみが知り得る国内では全く知られていない離島でした。「世界自然遺産登録」後、メディアや、観光会社、観光図書等による過度の紹介、観光誘致により一躍屋久島の存在が知られるようになり、以後年々観光入島者が増加、現在では40万人を超えるに至っています。

  中でも白谷雲水峡、ヤクスギランド、縄文杉等の名勝山岳地域は各地年間10万人を超える一極集中的増加が見られ、特に縄文杉の日最大登山者は1000人超と異常な状況下にあります。「世界自然遺産」に登録したことによる観光登山客の急増は、オーバーユースによる登山道の荒廃、ゴミ処理・山岳トイレ、ガイドの資質等々の地域社会的問題を招きました。また一方、登録以後14年経過した現在も山積した問題点の改善は遅々として進まず、関係省庁、行政、関係機関の対応が今後注目されるところです。

 

屋久島の自然保護に関する問題点

1)世界遺産登録による弊害
  屋久島が「世界自然遺産」に登録されて以来、多くの登山客、観光客が急増、急速に世界遺産に登録した関係、自然破壊、宿泊、交通、山岳遭難、生活環境など多くの社会的問題が発生。本旨を逸脱した環境にある。島民の間では「世界自然遺産」に対する賛否両論が沸騰している。

2)メディアや観光旅行社、観光ブックによる影響
  屋久島は世界自然遺産登録後、営利目的とした多くのメディア、観光旅行社、観光ブック等による観光客招致のための過度の宣伝等により急激な観光登山客が増加、自然保護はもとより、島民の生活に於いても多くの問題を提起している。

3)登山客、観光客の急激な増加による登山道の荒廃
  登山観光客の増加により踏圧で下層植物、樹木根、蘚苔類、落葉腐植層の枯死が多く、雨による集中流路ができて浸食が拡大、地層下部の花崗岩板が露出し、段差、水蝕崩壊地となっている。さらに侵蝕部の側壁は霜害による表土剥離、裸出根、浮根化、これらを避けるための迂回路の増加など多くの自然破壊が著しい。

4)観光と自然保護との狭間
  自然保護と観光は相反する関係にあり、現在はどちらかといえば観光優先にウエイトが置かれている。山麓の観光地は観光バスやレンタカーが走り、山中では都会並みの行列、トイレの渋滞、観光客のマナーの問題、ゴミの放置など難題は多い。

5)ゴミ処理、山岳トイレの問題
  登山者、観光客の増加に伴うトイレ、ゴミ処理の増大と山小屋の人力によるゴミ、トイレの処理搬出による人件費の負荷が大きい。現屋久島の山岳トイレは世界遺産前のトイレで、観光登山客の増加による対応が未だなされていない。

6)ガイドの問題
  現在登山ガイドとして観光協会に登録されているガイドは約90名余。日本山岳ガイド4名、その他フリーのガイドを入れると150名は優に超える。


7)動物による自然破壊
  屋久島には森林生態系に影響を及ぼす動物としてヤクシカ、ヤクシマザルが多く生息している。昭和46年の狩猟禁止(鹿児島県林務部による)以来増加の一途をたどり樹木、下層植物、農作物に与える被害が増大した。最近では本来屋久島には生息しないタヌキ(逃がしたという説がある)が全島に繁殖し、環境省も駆除に苦慮している。

8)交通問題
  飛行機、高速艇トピーなどシーズンには観光客で連日満員状態にあり、観光会社が予約を占めているため屋久島住民の緊急時の交通に支障をきたしている。屋久島の山岳地域内の観光地はレンタカーを必要とし、山中の狭い道路、近年の観光化による拡幅工事、路肩の崩壊防止工事等道路状況が悪く、慣れない観光客の交通事故が例年発生している。また、レンタカーの増加に伴い、山中の駐車場スペースが狭く、狭い道路上の駐車を余儀なくされている。

9)山岳遭難
  世界遺産登録当時は登山道周辺の植物は繁茂し、行方不明の遭難が多発した。その後整備がなされ改善されたが、近年は高齢者の山中病死、転倒などの怪我、失道による行くえ不明の遭難がある。

 

現在島内で検討されている対応策

  1)縄文杉入山者制限
  2)入島協力金
  3)登山道の整備
  4)山岳トイレ、屎尿、ゴミ処理問題
    ・現在荒川登山口トイレの拡張中
    ・今年度新高塚小屋のトイレ改善増設(自然浄化型)
  5)縄文杉コースへのアクセス、シャトルバス化
  6)獣害対策(平成19年より狩猟解禁)

 


屋久島は過去学者、自然保護団体、民意による自然保護運動の高まりと共に林野業務の皆伐を阻止し、営業林の縮小、一部全面禁止によって現存する自然林の拡大に大きな成果を上げた経緯があります。
現在関係省庁、行政を中心として前項の自然環境にかかわる諸活動を行ってはいるが、日本の経済状況から世界自然遺産に掛ける財源も少なく早期解決は期待できません。世界自然遺産に登録したことによる功罪、今後の活動として現状の自然を如何に後世に残し、維持管理していくかは大きな課題となっています。

これ以上の状況悪化を阻止し、遅滞していた屋久島の改善について関係省庁、行政、学識者、一般関係者を交え鋭意検討中であり、今後の動向が注目されるところです。

 

 

【表1】主な世界遺産の観光客数

  92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
白神山地 2,433 2,351 2,792 2,901 3,084 3,289 3,341 3,623 3,667 3,591 4,053 3,999
87 84 100 104 110 118 120 130 131 129 145 143
日光の社寺
2,418 2,160 2,017 1,849 1,710 1,688 1,608 1,583 2,132 1,590 1,507 1,489 1,498
113 101 95 87 80 79 75 74 100 75 71 70 70
白川郷・五箇山の
合掌造り集落
1,337 1,174 1,296 1,385 1,920 1,942 1,815 1,812 2,057 2,226 2,296 2,283 2,160
70 61 68 72 100 101 95 94 107 116 120 119 113
広島の平和記念碑
(原爆ドーム)
1,435 1,389 1,417 1,555 1,442 1,388 1,252 1,181 1,057 1,114 1,140 1,103 1,065
103 100 102 112 104 100 90 85 77 80 82 79 77
厳島神社 1,452 1,515 1,693 1,588 1,685 1,901 1,545 1,375 1,325 1,329 1,395 1,402 1,294
76 80 89 84 89 100 81 72 70 70 73 74 68
屋久島 242 209 233 257 253 264 280 260 263 286 290 315
84 73 82 90 88 92 98 91 92 100 101 110
琉球王国のグスク
及び関連遺跡群
1,114 2,148 1,841 1,852 1,771 1,887 1,974 2,096 2,117 2,035 2,362 2,513 2,455
55 106 90 91 87 93 97 103 104 100 116 123 121

 

(備考) 網掛けは世界遺産登録年。
上段は暦年ベースの観光客数(千人)、ただし、「広島の平和記念碑(原爆ドーム)」の観光客数は、平和資料記念館入場者数(年度ベース)、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」の観光客数は97年まで岐阜県分が年度ベース。下段は、世界遺産登録の翌年の観光客数を100とした指数。

 

屋久島の宿